パーキンソン病で抑うつが起こるのはなぜ?症状・原因・アパシーとの違いを解説

パーキンソン病では、手足の震えや動きにくさなどの運動症状だけでなく、気分の落ち込みや意欲の低下といった「非運動症状」がみられることがあります。その一つが「抑うつ」です。
「病気になったから気持ちが落ち込んでいるだけでは?」と思われるかもしれませんが、パーキンソン病の抑うつには、病気に対する心理的な負担だけでなく、脳内の神経伝達物質の変化なども関係していると考えられています。
また、「何もする気が起きない」「以前より活動しなくなった」といった変化があっても、必ずしも抑うつとは限りません。アパシー(意欲・自発性の低下)や動作緩慢、薬の効果が弱くなるOFF(オフ)などが影響していることもあります。
この記事では、パーキンソン病で抑うつが起こる理由や症状、アパシーとの違い、治療や運動との関係、家族が気づきたい変化についてわかりやすく解説します。
パーキンソン病では抑うつがみられることがある

パーキンソン病というと、手足の震え(振戦)や筋肉のこわばり(筋固縮)、動作が遅くなる(動作緩慢)といった症状がよく知られています。
しかし、パーキンソン病では身体の動き以外にも、抑うつ、不安、睡眠障害、便秘、認知機能の変化など、さまざまな「非運動症状」がみられます。
抑うつも、その代表的な症状の一つです。
抑うつはパーキンソン病の「非運動症状」の一つ
抑うつでは、単に気分が落ち込むだけではありません。
「以前好きだったことを楽しめない」「何をするにも気が進まない」「将来を悲観的に考えてしまう」など、感情や意欲、行動に変化が現れることがあります。
一方、パーキンソン病では動作緩慢や疲労、睡眠障害、アパシーなどでも活動量が低下します。
そのため、外から見ただけでは抑うつかどうかを判断するのが難しいことがあります。

診断後の心理的な落ち込みだけが原因ではない
パーキンソン病と診断されれば、「これからどうなるのだろう」「仕事や生活を続けられるだろうか」と不安を感じることがあります。
このような心理的・社会的な負担も抑うつに関係しますが、パーキンソン病の抑うつを心理的なショックだけで説明することはできません。
パーキンソン病では、ドーパミンだけでなく、セロトニンやノルアドレナリンなど、気分や意欲に関係する神経伝達系にも変化が生じることが知られています。
そのため、脳内の変化、身体症状、心理的負担、生活環境などが複雑に関係して抑うつが生じると考えられています。
パーキンソン病で抑うつが起こるのはなぜ?

パーキンソン病で抑うつが起こる原因は一つではありません。
主に、脳内の神経伝達系の変化、身体症状や生活の変化、心理・社会的な負担、ON・OFFに伴う症状の変動などが関係していると考えられています。
ドーパミンなど神経伝達物質の変化
パーキンソン病では、脳内でドーパミンをつくる神経細胞が減少します。
ドーパミンは身体の動きを調節するだけでなく、意欲や報酬、感情にも関係する神経伝達物質です。
さらに、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達系にも変化が生じることが知られており、こうした複数の神経系や感情に関係する脳内ネットワークの変化が、抑うつに関係していると考えられています。
ただし、抑うつが起こる仕組みが完全に解明されているわけではありません。

パーキンソン病による身体症状や生活の変化
動作緩慢や筋肉のこわばり、震え、歩行障害などによって、これまでできていたことが難しくなる場合があります。
たとえば、外出や趣味が減る、転倒が怖くなる、家族に手伝ってもらうことが増えるなど、身体症状をきっかけに生活そのものが変化することがあります。
痛みや疲労、睡眠障害などの非運動症状が重なることもあり、こうした身体的な負担や生活範囲の変化も気分に影響する可能性があります。
将来への不安や社会生活への影響
パーキンソン病は長く付き合っていく必要のある病気です。
「症状はこれからどうなるのか」「仕事を続けられるのか」「家族に負担をかけないだろうか」といった不安を感じることがあります。
さらに、仕事や家事、趣味、人との交流が減ると、自信を失ったり社会とのつながりが少なくなったりすることもあります。
こうした心理的・社会的な変化も、抑うつに関係する要因の一つです。
OFF(オフ)の時間帯に気分が変化することもある
パーキンソン病では、薬が効いて身体を動かしやすいONと、薬の効果が弱くなり症状が現れやすくなるOFFがみられることがあります。
OFFでは動きにくさや震えなどの運動症状だけでなく、気分の落ち込み、不安、イライラ、疲労感などの非運動症状が強くなることがあります。
このような症状は「非運動症状の変動」と呼ばれます。
「薬が切れてくる時間になると気分も落ち込む」などの傾向がある場合には、服薬時間と身体・気分の変化を一緒に記録し、主治医に伝えることが役立ちます。

パーキンソン病の抑うつでみられる症状
パーキンソン病に伴う抑うつの現れ方には個人差があります。
一つの症状だけで判断するのではなく、以前と比べてどのような変化があり、それがどのくらい続いているのかを確認することが大切です。
気分が落ち込む・悲観的になる
抑うつでは、気分の落ち込みや悲しさが続いたり、物事を悲観的に考えたりすることがあります。
「家族に迷惑をかけている」「これからよくなることはない」と考えたり、自分を責めたりすることもあります。
一時的な落ち込みと区別するうえでは、状態が続いているか、日常生活に影響しているかが重要です。
好きだったことを楽しめなくなる
抑うつでは、これまで楽しんでいたことに興味や喜びを感じにくくなる「興味・喜びの喪失(アンヘドニア)」がみられることがあります。
以前楽しみにしていた趣味をしなくなったり、人との交流を避けたりする場合があります。
ただし、「やりたいけれど身体が動かない」「転倒が怖くて出かけられない」場合もあるため、行動だけでなく本人の気持ちを確認することが大切です。
意欲や活動量が低下する
抑うつに伴って、物事を始めることがおっくうになったり、外出や交流が減ったりすることがあります。
ただし、パーキンソン病では、アパシー、動作緩慢、疲労、OFF、転倒への不安などでも活動量が低下します。
そのため、「活動しなくなった=抑うつ」とは判断できません。
睡眠・食欲・疲労など身体面に現れることもある
抑うつでは、睡眠や食欲の変化、疲労感、エネルギーの低下、集中しにくさなどがみられることもあります。
ただし、これらはパーキンソン病そのものでも起こる症状です。
特に睡眠障害や疲労は代表的な非運動症状でもあるため、気分の落ち込みや楽しみの減少など、ほかの変化と合わせて考える必要があります。
抑うつとアパシーの違い

パーキンソン病では、抑うつと似た状態としてアパシーがみられることがあります。
どちらも「以前より活動しなくなった」「何もしなくなった」という変化がみられるため、本人や家族だけで区別することは簡単ではありません。
アパシーとは意欲や自発性が低下した状態
アパシーとは、物事に取り組もうとする意欲や、自分から行動を始める力が低下した状態です。
自分から出かけなくなった、趣味や日課を始めなくなった、声をかけられないと行動しなくなった、といった変化がみられることがあります。
抑うつとの重要な違いは、必ずしも強い悲しさや気分の落ち込みを伴わないことです。
アパシーも本人の性格や「怠け」ではなく、パーキンソン病に関連する非運動症状として考える必要があります。
抑うつとアパシーは同時にみられることもある
抑うつとアパシーは同じものではありませんが、一人の人に両方がみられることもあります。
違いを大まかに整理すると次のようになります。
| 抑うつ | アパシー | |
|---|---|---|
| 主な変化 | 気分・感情の変化 | 意欲・自発性の低下 |
| 気分の落ち込み | みられやすい | 必ずしもみられない |
| 悲観的な考え | みられることがある | 必ずしもみられない |
| 活動量 | 低下することがある | 低下しやすい |
| 自分から行動する力 | 低下することがある | 特に低下しやすい |
この表だけで診断できるものではなく、実際には動作緩慢や疲労、認知機能の変化なども含めて評価する必要があります。
家族からは「何もしなくなった」と同じように見えることがある
家族からすると、一日中座っている、趣味をやめた、運動をしなくなったといった変化は、すべて「やる気がなくなった」ように見えるかもしれません。
しかし、その背景には抑うつ、アパシー、動作緩慢、OFF、疲労、転倒への不安など、さまざまな可能性があります。
大切なのは、「何をしなくなったか」だけでなく、「なぜしなくなったのか」を考えることです。
パーキンソン病の抑うつはどうやって評価・診断する?
パーキンソン病に伴う抑うつは、「気分が落ち込んでいる」という一つの症状だけで診断するものではありません。
医療機関では、気分や意欲、睡眠、食欲、疲労、生活への影響などを確認し、必要に応じて質問票や評価尺度を使用します。
ただし、パーキンソン病の症状や服薬状況なども含めて総合的に判断する必要があります。
本人だけでなく家族が気づく変化も大切
本人が変化を自覚していないこともあるため、家族が気づいた「以前との違い」も重要な情報です。
趣味をしなくなった、外出や会話が減った、悲観的な発言が増えた、睡眠や食事が変わったなど、具体的な変化を確認しましょう。
診察では「元気がない」だけでなく、いつ頃から何が変わったのかを伝えると状態を把握しやすくなります。
パーキンソン病の症状と重なるため自己判断は難しい
疲労や睡眠障害、活動量低下などは抑うつでもみられますが、パーキンソン病そのものでも起こります。
また、アパシーや動作緩慢、OFFなどによって「動かなくなった」ように見えることもあります。
そのため、「最近動かないから抑うつだろう」と自己判断するのではなく、気分、身体症状、生活状況、ON・OFFなどを含めて評価することが重要です。
気になる変化が続く場合は主治医に相談する
気分の落ち込みや興味・意欲の低下が続き、日常生活に影響している場合は、まずパーキンソン病を診てもらっている主治医に相談しましょう。
「いつ頃から」「一日中なのか」「ONとOFFで違うのか」などを整理して伝えると役立ちます。
必要に応じて、精神科・心療内科など他の専門医と連携することもあります。
パーキンソン病に伴う抑うつの治療
パーキンソン病に伴う抑うつは、治療やサポートによって改善が期待できる症状です。
治療では、パーキンソン病の治療調整、抗うつ薬、心理療法、運動、社会的な支援などを症状に応じて組み合わせます。
パーキンソン病の治療や薬の調整
OFFの時間帯に身体症状とともに抑うつや不安が強くなる場合には、パーキンソン病治療の見直しが検討されることがあります。
現在使用している薬との相互作用なども考える必要があるため、パーキンソン病の薬や抗うつ薬を自己判断で増減・中止してはいけません。
抗うつ薬などによる治療
症状や重症度に応じて、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬が使用されることがあります。
どの薬が適しているかは、年齢、症状、睡眠や不安、認知機能、ほかに服用している薬、副作用のリスクなどを考慮して医師が判断します。
心理的・社会的なサポート
薬だけでなく、「認知行動療法(CBT)」などの心理療法が選択されることもあります。
また、家族や友人との交流、患者会や地域活動など、社会とのつながりを保つことも大切です。
必要に応じて、主治医だけでなく、精神科・心療内科、心理職、リハビリテーション専門職、医療ソーシャルワーカーなどが連携して支援します。
運動はパーキンソン病の抑うつにも役立つ?
運動は歩行や筋力などの身体機能だけでなく、気分や生活の質(QOL)にもよい影響を与える可能性があります。
パーキンソン病の人を対象とした研究でも、運動によって抑うつ症状が改善する可能性が報告されています。
ただし、運動だけで抑うつを治療できるわけではありません。
運動は身体機能だけを目的に行うものではない
ウォーキングによって外に出る、家族と一緒に体操する、運動教室に参加するといった活動は、身体を動かすだけでなく、人との交流や生活の楽しみにつながることがあります。
そのため、運動は身体機能だけでなく、活動や社会参加を維持する手段の一つとして捉えることができます。
無理なく身体活動を続けることが大切
体調に合わせて、自宅で身体を動かす、短時間歩く、家事をする、家族と散歩するといった活動から始めてもかまいません。
パーキンソン病ではON・OFFによって動きやすさが変化するため、比較的動きやすい時間帯を利用することも一つの方法です。
重要なのは、運動量だけを追い求めるのではなく、本人が無理なく続けられる身体活動を生活の中に取り入れることです。
抑うつが強いときは「運動させること」を優先しない
本人が運動や外出をしなくなると、家族は「少しでも身体を動かした方がよいのでは」と心配になるかもしれません。
しかし、抑うつが強い状態で「もっと運動しないと」「頑張って外に出よう」と強く促すことが、本人の負担になる場合があります。
まずはなぜ活動しなくなったのかを考え、抑うつが疑われる場合には運動を増やすことよりも、適切な評価や治療につなげることを優先しましょう。
家族が気づきたい変化と接し方

抑うつやアパシーは、本人より家族が先に変化に気づくことがあります。
行動だけを見て判断するのではなく、以前との違いを観察しながら本人の状態を理解することが大切です。
「やる気がない」と決めつけない
一日中座っている、運動しなくなった、何度言っても動かないといった様子があっても、本人の性格や意思だけが原因とは限りません。
抑うつやアパシー、動作緩慢、OFF、疲労などの可能性があります。
「もっとやる気を出して」と決めつける前に、何が行動を妨げているのかを考えてみましょう。
無理に外出や運動を勧めすぎない
身体活動や人との交流は大切ですが、本人がつらい状態にあるときに無理に行動を促すことが逆効果になる場合もあります。
「散歩しなさい」と強く促すのではなく、「一緒に少し外に出てみる?」など、小さな活動を提案する方法もあります。
強制するのではなく、本人の状態に合わせることが大切です。
以前との変化を主治医や専門職に伝える
家族ができる重要なことの一つが、「以前と比べて何が変わったのか」を医療者に伝えることです。
いつ頃から変わったのか、好きなことをしなくなったか、睡眠・食事はどうか、ONとOFFで違いがあるかなどを具体的に伝えましょう。
「動けなくなった」のか、「動こうとしなくなった」のか、「特定の時間だけ動けない」のかによっても背景は異なります。
家族だけで原因を判断せず、生活の中で起きている変化を医療者と共有することが大切です。
こんなときは医療機関に相談を
一時的な落ち込みだけで抑うつと判断する必要はありません。
しかし、以前と比べて気分や行動に明らかな変化が続いている場合には、「パーキンソン病だから仕方がない」と我慢せず主治医に相談しましょう。
気分の落ち込みや意欲低下が続いている
気分の落ち込み、以前楽しめていたことを楽しめない、何をするにも気が進まない、悲観的な発言が増えたなどの状態が続く場合には、相談する一つの目安になります。
特に、以前と比べて明らかな変化が続いている場合には主治医へ伝えましょう。
日常生活や社会生活への影響が大きくなっている
外出や人との交流を避ける、趣味や日課をやめる、仕事や家事が続けにくくなる、食事や身だしなみに関心を示さなくなるなど、生活への影響が大きくなっている場合にも相談が必要です。
身体症状だけでは説明しにくい変化が増えている場合は、医療者に伝えましょう。
本人や家族だけで抱え込まず主治医に相談する
まずは、パーキンソン病を診てもらっている脳神経内科などの主治医に相談してください。
また、本人から「生きていたくない」「消えてしまいたい」「自分を傷つけたい」などの発言がある場合は、定期受診まで待たず速やかに医療機関へ相談することが重要です。
自殺について具体的に考えている、方法を準備しているなど、差し迫った危険がある場合には本人を一人にせず、救急医療を含めて専門的な支援につなげてください。
パーキンソン病の抑うつについてよくある質問
パーキンソン病では、抑うつは比較的よくみられる非運動症状の一つです。脳内の変化だけでなく、身体症状や生活の変化、将来への不安など複数の要因が関係すると考えられています。
同じではありません。抑うつは気分の落ち込みや楽しみの低下などが中心なのに対し、アパシーは意欲や自発性の低下が中心です。ただし、両方が同時にみられることもあります。
あります。OFFの時間帯に、身体の動きにくさだけでなく、気分の落ち込みや不安などが強くなることがあります。時間帯との関係がある場合は、服薬時間と症状を記録して主治医に伝えましょう。
運動によって抑うつ症状や気分が改善する可能性があります。ただし、運動だけで治療できるとは限らないため、症状が続く場合は必要な治療と組み合わせることが大切です。
「やる気がない」と決めつけず、本人の状態を理解することが大切です。無理に外出や運動を促しすぎず、以前との変化が続いている場合は主治医や専門職に伝えましょう。
まとめ
抑うつもパーキンソン病で注意したい症状の一つ
抑うつは、パーキンソン病でみられる代表的な非運動症状の一つです。
気分の落ち込みだけでなく、楽しみの減少や意欲低下、睡眠・食欲などの変化として現れることもあります。
一方で、アパシーや動作緩慢、疲労、OFFなどでも活動量が低下するため、「元気がない」「何もしなくなった」という様子だけで判断することはできません。
以前と比べて気分や行動の変化が続いている場合は、本人や家族だけで抱え込まず、主治医に相談することが大切です。
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