パーキンソン病で階段の上り下りが難しいのはなぜ?原因・安全な昇降方法・リハビリを解説

パーキンソン病では、歩くことはできても「階段の上り下りが以前より大変になった」「下りるときに怖さを感じる」といった変化がみられることがあります。
階段昇降には、脚の筋力だけでなく、バランス能力、足を持ち上げる動き、重心移動、姿勢の安定など、さまざまな身体機能が必要です。パーキンソン病では、動作緩慢や身体のこわばり、バランス低下、すくみ足などが影響し、階段の上り下りが難しくなることがあります。
一方で、平地では足が出にくくても、階段の段差が目印になることで比較的スムーズに足を運べる場合もあります。ただし、階段を上れるからといって転倒の危険がないわけではありません。
この記事では、パーキンソン病で階段の上り下りが難しくなる原因や特徴、安全に昇降するためのポイント、リハビリや運動、自宅環境の見直しについて、日常生活の視点からわかりやすく解説します。
パーキンソン病では階段の上り下りが難しくなることがある
パーキンソン病では、平地を歩くことはできても、「階段を上ると脚が重い」「下りるときに身体が前へ行きそうで怖い」と感じることがあります。
階段の上り下りは、単に脚を上げるだけの動作ではありません。身体を片脚で支えながら重心を移動させ、次の段へ足を正確に運ぶ必要があります。
そのため、筋力やバランス、姿勢を調整する力など、複数の身体機能が関係しています。
階段昇降には筋力・バランス・重心移動が必要
階段を上るときは、段に置いた脚で身体を持ち上げるため、太ももやお尻、ふくらはぎなどの筋肉を使います。
同時に、一時的に片脚で身体を支えながら、重心を次の段へ移していかなければなりません。
パーキンソン病では、動作が小さくなったり、足を持ち上げる速度が遅くなったりすることがあります。そのため、段差につま先が引っかかったり、一段目へ足を運ぶまでに時間がかかったりする場合があります。
理学療法士が階段動作を確認するときも、脚の筋力だけを見るのではなく、「足を十分に持ち上げられているか」「片脚で支えられているか」「身体が大きく傾いていないか」「手すりを適切に使えているか」など、動作全体を確認します。
上りと下りでは必要な動きが異なる
階段の上りと下りでは、身体に求められる動きが異なります。
上りでは、脚の力を使って身体を次の段まで持ち上げます。一方、下りでは、身体が急に落ちないように脚で支えながら、重心を下の段へ移していく必要があります。
そのため、「上ることはできるけれど、下りるのが怖い」という方もいます。
大切なのは、「階段を上り下りできるか」だけではなく、手すりなしで無理をしていないか、足を置く位置が安定しているか、身体が前へ流れていないかなど、安全に動作できているかを確認することです。
パーキンソン病で階段の上り下りが難しくなる原因

パーキンソン病で階段の上り下りが難しくなる背景には、ひとつの原因だけではなく、動作緩慢、筋力低下、固縮、バランス低下、すくみ足、薬の効き方の変化など、複数の要因が関係します。
そのため、「脚を鍛えれば解決する」とは限りません。どの場面で難しさが出ているのかを確認し、その人に合った対策を考えることが大切です。
動作緩慢で足を持ち上げにくくなる
動作緩慢とは、動きが遅くなったり、小さくなったりするパーキンソン病の代表的な症状です。
階段では、足を段の高さまで持ち上げ、適切な位置へ置く必要があります。動きが小さくなると、十分に足を上げられず、つま先が段差に引っかかることがあります。
理学療法士は、単に「脚が上がるか」だけでなく、足を運ぶ速さや足を置く位置なども確認します。

筋力低下で身体を支えにくくなる
階段を上るときには、太ももやお尻などの筋肉を使って身体を持ち上げます。下りでは、身体が急に落ちないように脚で支える力が必要です。
パーキンソン病の方では、筋力や筋パワーが低下していることが報告されています。また、活動量が減ることで、さらに筋力が低下することもあります。
「手すりを強く引っ張らないと上れない」「途中で脚が疲れる」といった変化は、筋力を確認するひとつの目安になります。

固縮や身体のこわばりで動きが小さくなる
固縮とは、筋肉の緊張が高まり、身体を動かしたときに抵抗を感じやすくなる症状です。
身体がこわばると、股関節や膝、足首を連動させた滑らかな動きがしにくくなり、階段で足を運ぶ動作も小さくなることがあります。
体幹の動きが少なくなることで、重心移動がぎこちなくなる場合もあります。

バランス低下・姿勢反射障害で不安定になる
階段では一時的に片脚で身体を支えるため、平地歩行より高いバランス能力が求められます。
パーキンソン病が進行すると、身体が傾いたときに姿勢を立て直す反応が低下することがあります。
特に階段を下りる場面では、身体を支えながら重心を下方へ移す必要があり、不安定さや怖さを感じやすくなります。

すくみ足やON・OFFの影響を受けることがある
すくみ足がある方では、階段へ近づくときや動き始め、方向転換などで足が出にくくなることがあります。
一方で、段差が「足を置く目印」となり、平地より足を出しやすくなる方もいます。
また、薬が効いているONの時間と、効果が弱くなるOFFの時間では、動きやすさが変化することがあります。
階段が時間帯によって上り下りしにくくなる場合には、薬の効き方との関係も確認してみましょう。

平地では歩きにくいのに階段は上りやすいことがあるのはなぜ?

パーキンソン病では、平地では小刻み歩行やすくみ足がみられるのに、階段になると比較的スムーズに足を運べることがあります。
これは、床の線や段差、音のリズムなど、外から与えられる「手がかり」を利用すると動きやすくなる場合があるためです。
このような手がかりを、リハビリでは「キュー(cue)」と呼びます。
段差が「足を出す目印」になることがある
平地では、「どのくらい足を前へ出すか」を自分で調整しながら歩き続けます。
一方、階段では次の段がはっきり見えるため、「ここまで足を上げる」「ここに足を置く」という目標が明確になります。
そのため、平地では足が止まってしまう方でも、階段では一段ずつ比較的リズムよく足を運べることがあります。
理学療法士が歩行を確認するときにも、「歩ける・歩けない」だけではなく、どのような環境や目印があると足が出やすくなるのかを確認します。
視覚的なキューによって動きやすくなる場合がある
目で確認できる動作の手がかりを「視覚的キュー」と呼びます。
例えば、
- 床に引かれた線をまたぐ
- 目印まで足を出す
- 一定間隔の目標へ足を運ぶ
といった方法があります。
階段の段差も、このような視覚的キューとして働くことがあります。
研究でも、視覚的なキューによって歩幅などの歩行パラメータが改善することが報告されています。
ただし、効果には個人差があるため、「段差があれば必ず歩きやすくなる」というわけではありません。
階段を上れるからといって安全とは限らない
平地では歩きにくいのに階段を上れると、「階段は問題なく使える」と考えてしまうかもしれません。
しかし、階段を上れることと、安全に階段を使えることは別です。
特に、
- 階段へ近づくとき
- 上り始め・下り始め
- 踊り場で方向転換するとき
- 階段から平地へ移るとき
など、動作が切り替わる場面ですくみ足やふらつきがみられることがあります。
「できているから大丈夫」ではなく、安全に、安定して、繰り返しできているかを確認することが重要です。
階段を安全に上り下りするためのポイント

パーキンソン病の方が階段を使うときは、「普通に上り下りすること」よりも、転倒や転落を防ぎながら安全に移動することを優先しましょう。
手すりを使い急がず一段ずつ昇降する
階段では、できるだけ手すりを利用しましょう。
手すりにつかまることで身体を支える場所が増え、バランスを崩したときにも姿勢を立て直しやすくなります。
不安定な場合には、片足を一段上げたあと、もう一方の足も同じ段へそろえてから次へ進む方法が安全な場合もあります。
「交互に足を出せるか」よりも、その方法で安定して昇降できているかを優先しましょう。
足を置く位置と段差を確認する
階段では、足の裏全体をできるだけ安定して段に置いてから、次の動作へ移ることが大切です。
特に上りでは、つま先が段差に引っかからないように足を持ち上げます。下りでは、次の段を確認してから足を下ろします。
ただし、足元を見ようとして身体を大きく前へ曲げすぎると、バランスを崩すことがあります。
荷物を持ったまま階段を使わない
階段では、できるだけ手を自由にしておくことをおすすめします。
両手に荷物を持っていると手すりを使えず、バランスを崩したときにも身体を支えにくくなります。
荷物を家族に運んでもらう、リュックを使う、1回に運ぶ量を減らすなどの工夫も検討しましょう。
ON・OFFや疲労など体調の変化にも注意する
パーキンソン病では、一日の中でも動きやすさが変化することがあります。
OFFでは、動作の遅さやこわばり、すくみ足などが強くなることがあります。
また、疲れているときや立ちくらみがあるときには、普段できている階段でも不安定になる場合があります。
「午前中は問題ないが夕方は危ない」「服薬前は足が出にくい」など、階段の使いやすさと時間帯の関係も確認してみましょう。
夜間は照明をつけ足元を見やすくする
階段では、段差の境目を正確に確認できる明るさが重要です。
暗い場所では段差の高さや足を置く位置が分かりにくくなるため、十分な照明を確保しましょう。
必要に応じて、足元灯や人感センサー付き照明を利用する方法もあります。筆者が訪問リハビリで伺う際、人感センサーをご提案することが多く、多くの方が導入してよかったと言っていただいています。
階段昇降が難しいときに行いたいリハビリ・運動
階段が難しくなってきた場合は、階段だけを繰り返し練習するのではなく、筋力・バランス・足を運ぶ能力など、必要な要素を分けて練習することが大切です。
太もも・お尻など下肢の筋力を保つ
階段を上るときには、太ももやお尻などの筋肉を使って身体を持ち上げます。
例えば、
- 椅子からの立ち座り
- 安全な場所でのスクワット
- かかとの上げ下げ
- 低い段差を使ったステップアップ
などが練習として考えられます。
ただし、筋力が強ければ必ず階段が安定するわけではありません。実際の動作の中で、その力を適切に使えているかも重要です。
バランス能力と片脚で支える力を練習する
階段では、一方の足を次の段へ運んでいる間、もう一方の脚で身体を支える必要があります。
リハビリでは、
- 支持物につかまって左右へ体重を移す
- 一歩前へ出して戻す
- 前後・左右へのステップ練習を行う
といった方法があります。
転倒歴がある方や一人で立つことに不安がある方は、無理に片脚立ちを行う必要はありません。
足を持ち上げるステップ練習を行う
階段では、つま先を段差に引っかけないように足を持ち上げ、次の段へ正確に置く必要があります。
例えば、
- 床の目印をまたぐ
- 低い障害物をまたぐ
- 前後・左右へ大きく一歩出す
- 低い段差へ足を乗せて戻す
といった練習があります。
理学療法士は、足を高く上げることだけでなく、足を出すタイミング、足を置く位置、重心移動まで含めて確認します。
実際の階段練習は安全を確保して行う
最終的には、実際の生活で使う階段を安全に上り下りできることが目標になります。
ただし、階段は転倒した場合に大きなけがにつながる可能性があります。
練習するときは、
- 手すりを使用する
- 滑りにくい靴を履く
- 疲れていない時間帯に行う
- 動きにくいOFFの時間を避ける
- 必要に応じて家族や専門職が見守る
など、安全を確保しましょう。
階段の上り下りが危なくなってきたときに見直したいこと
階段が不安定になってきたときは、無理に今までと同じ方法を続けるのではなく、身体の状態に合わせて環境や生活の仕方を変えることも重要です。
手すりや滑り止めなど自宅環境を整える
自宅の階段では、
- 手すりを設置する
- 段に物を置かない
- 滑りにくい環境にする
- 十分な照明を確保する
- 段差を見分けやすくする
などの対策を検討しましょう。
生活動線を見直して階段を使う回数を減らす
階段が不安定になったからといって、必ずすぐに使用をやめる必要はありません。
一方で、
- よく使う物を同じ階にまとめる
- 日用品を1階・2階それぞれに置く
- 洗濯物を家族に運んでもらう
- 夜間は階段を使わなくて済む環境を整える
など、必要のない階段昇降を減らすことも安全対策になります。
一人での階段昇降が安全かを確認する
次のような変化がある場合には、一人での階段昇降が安全か確認しましょう。
- 手すりに強くつかまらないと上れない
- 下りで身体が前へ流れる
- つま先が段差に引っかかる
- ふらつきが増えた
- 最近転倒した
- 階段への恐怖感が強くなった
本人や家族だけで判断するのではなく、必要に応じて専門職に動作を確認してもらうことも大切です。
必要に応じて専門職へ相談する
理学療法士や作業療法士は、身体機能だけでなく、手すりの位置や生活動線、自宅環境なども含めて安全な方法を検討します。
階段が危なくなってきたことは、「生活できなくなった」という意味ではありません。
身体機能と環境の両方を見直し、安全に生活を続けられる方法を考えていきましょう。
自宅の階段に不安がある場合は訪問リハビリも選択肢
自宅の階段で「最近ふらつくようになった」「下りるのが怖くなった」と感じる場合には、訪問リハビリを検討する方法もあります。
訪問リハビリの特徴は、実際に生活している自宅の環境で動作を確認できることです。

実際の自宅環境で階段動作を確認できる
階段は、段差の高さや幅、手すりの位置、照明、踊り場の広さなどが家によって異なります。
訪問リハビリでは、
- 足の上がり方
- 手すりの使い方
- 上りと下りの違い
- 踊り場での方向転換
- 階段前後のすくみ足
- ON・OFFによる変化
などを、普段使っている階段で確認できます。
手すりや生活動線について相談できる
訪問リハビリでは、階段の練習だけでなく、
- 手すりを追加した方がよいか
- 照明は十分か
- 生活用品を別の階にも置いた方がよいか
- 寝室や生活の中心を1階へ移した方がよいか
など、自宅環境についても相談できます。
「階段をもっと練習する」だけではなく、階段を使う回数そのものを減らせないかという視点も大切です。
通所・自費リハビリなど他のサービスとの使い分けも重要
階段に不安があるからといって、必ず訪問リハビリだけを利用する必要はありません。
比較的自立して外出できる場合には、通所や自費リハビリなどで筋力トレーニング、バランス練習、歩行練習などに取り組む方法もあります。
一方、自宅の階段・浴室・玄関など、具体的な生活環境で困りごとが出てきた場合には、訪問リハビリの強みが生かされます。
「どのサービスが一番よいか」ではなく、今の身体状態や生活上の困りごとに、どのサービスが合っているかを考えることが大切です。
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パーキンソン病の階段昇降に関するよくある質問
あります。階段の段差が「足を置く目印」となり、平地より足を出しやすくなる場合があります。ただし、効果には個人差があります。
一概には言えませんが、下りでは身体を支えながら重心を下へ移す必要があるため、不安定さを感じやすい場合があります。上り・下りとも安全性を確認することが大切です。
片側の手すりでも安全に使える方はいます。ただし、身体機能や階段の形状によっては両側の手すりが適している場合もあります。
毎日階段を繰り返し上り下りする必要はありません。筋力・バランス・ステップ練習などを組み合わせ、体調や疲労に合わせて行いましょう。
必ずしもすぐにやめる必要はありません。手すりや照明、生活動線を見直すことで安全性を高められる場合があります。転倒が増えた場合などは、生活の中心を1階へ移すことも検討します。
まとめ
階段は「できるか」だけでなく「安全にできるか」を確認することが大切
パーキンソン病では、動作緩慢や筋力低下、バランス低下、すくみ足などの影響で、階段の上り下りが難しくなることがあります。
一方、段差が目印となり、平地より階段の方が足を出しやすい場合もあります。ただし、階段を上り下りできることと、安全に使えることは別です。
手すりや照明などの環境を整え、体調やON・OFFにも注意しながら利用しましょう。
不安定さが増えてきた場合は、理学療法士などの専門職に相談し、身体機能と自宅環境の両方から安全な方法を考えることが大切です。
参考文献・参考資料
- Osborne JA, Botkin R, Colon-Semenza C, et al. Physical Therapist Management of Parkinson Disease: A Clinical Practice Guideline From the American Physical Therapy Association. Physical Therapy. 2022;102(4):pzab302.
- Stone AE, Skinner JW, Lee HK, Hass CJ. A little trouble getting started: Initial slowness in Parkinson's disease step negotiation. Gait & Posture. 2017;57:97-101.
- Cosentino C, Putzolu M, Mezzarobba S, et al. One cue does not fit all: A systematic review with meta-analysis of the effectiveness of cueing on freezing of gait in Parkinson's disease. Neuroscience & Biobehavioral Reviews. 2023;150:105189.
- Parkinson's Foundation. Home Safety.
- 厚生労働省.通所・訪問リハビリテーションに関する資料.




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