パーキンソン病の筋力トレーニング|効果・鍛えたい筋肉・自宅でできる方法を理学療法士が解説

パーキンソン病になると、「足の力が落ちてきた気がする」「立ち上がりにくい」「歩くと疲れやすい」と感じることがあります。こうした変化に対して、筋力トレーニングを取り入れた方がよいのか悩む方も多いのではないでしょうか。
筋力トレーニングは、パーキンソン病の方にとっても大切な運動のひとつです。下肢や体幹の筋力を保つことは、立ち上がりや歩行などの日常生活を支えるうえで役立ちます。
ただし、パーキンソン病の「動きにくさ」が、すべて筋力低下によって起こるわけではありません。動作緩慢や筋固縮、姿勢やバランスの変化などが関係していることもあり、単純に筋肉を鍛えればよいとは限りません。
この記事では、パーキンソン病に筋力トレーニングを取り入れる意味や効果、鍛えておきたい筋肉、自宅で行いやすい方法、注意点について、理学療法士の視点からわかりやすく解説します。
パーキンソン病に筋力トレーニングは必要?
パーキンソン病の方にとって、筋力トレーニングは運動療法を構成する大切な要素のひとつです。筋力を保つことは、椅子から立つ、歩く、階段を上るなどの日常生活を支えることにつながります。
ただし、筋トレだけですべての症状を改善できるわけではありません。症状や生活上の困りごとに合わせて、有酸素運動やバランス練習、柔軟性運動などと組み合わせることが重要です。

パーキンソン病でも筋力は低下する
研究では、パーキンソン病の方は同年代の健康な方と比べて、筋力や筋パワーが低下している傾向が報告されています。
その背景には、パーキンソン病による運動機能の変化だけでなく、動きにくさによる活動量の低下や、加齢に伴う筋肉量・筋力の低下など、複数の要因が関係します。
一方で、「足に力が入らない」と感じても、必ずしも筋肉そのものが弱くなっているとは限りません。

筋力を保つことは立ち上がりや歩行などの日常生活を支える
筋力は、日常生活を送るための土台になります。
たとえば、椅子から立ち上がるときには太ももやお尻の筋肉、歩行では下肢や体幹を含む多くの筋肉が働きます。
大切なのは、筋力そのものを高めることだけではありません。「立ちやすくする」「歩き続けられるようにする」など、生活上の目的と筋力トレーニングを結びつけることが重要です。
筋力トレーニングはパーキンソン病の運動療法のひとつ
筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)は、筋肉に適切な負荷をかけ、筋力や筋機能の維持・向上を目指す運動です。
パーキンソン病の方でも、筋力や運動機能などへの効果が報告されています。
現在の運動推奨では、筋力トレーニングだけでなく、有酸素運動、柔軟性運動、バランス・敏捷性などを組み合わせることが勧められています。
パーキンソン病の「動きにくさ」は筋力低下だけが原因ではない

パーキンソン病では、「身体が動かしにくい」「足に力が入りにくい」と感じることがあります。
しかし、こうした動きにくさには筋力だけでなく、動作緩慢や筋固縮、姿勢・バランスなど、さまざまな要因が関係しています。
動作緩慢によって力を出しにくく感じることがある
動作緩慢(ブレイディキネジア)は、パーキンソン病の代表的な運動症状です。
動き始めるまでに時間がかかったり、動作が遅くなったり、繰り返すうちに動きが小さくなったりします。
そのため、実際の筋力以上に「力が出ない」と感じることがあります。筋力そのものと、持っている筋力を動作の中で発揮できることは分けて考える必要があります。

筋固縮や姿勢の変化も動作に影響する
筋固縮によって腕や脚、体幹がこわばると、関節を滑らかに動かしにくくなります。
また、パーキンソン病では前かがみなどの姿勢変化がみられることもあります。
こうした場合には、筋力トレーニングだけでなく、柔軟性や姿勢、身体の動かし方へのアプローチも必要です。

バランス障害や重心移動のしにくさで動けないこともある
立つ、歩く、方向を変えるときには、身体の重心を適切な方向へ移動させる必要があります。
たとえば椅子から立ち上がるときには、身体を前方へ移してから足で床を押します。脚の筋力があっても、この重心移動が十分にできなければ立ち上がりにくくなることがあります。

「立てない・歩けない=筋力不足」とは限らない
立ち上がりにくさには、筋力だけでなく、足の位置、体幹の前傾、重心移動、関節の動き、動作緩慢、バランスなどが関係します。
歩行についても、歩幅の減少やすくみ足、姿勢、バランスなどさまざまな要因があります。
そのため、「できない動作があるから筋トレをする」のではなく、なぜその動作が難しいのかを考えることが大切です。
理学療法士として筋力トレーニングを考えるときに確認していること

理学療法士として筋力トレーニングを考えるときには、単純に「筋力が弱いかどうか」だけを見るわけではありません。
一番大切なことは、その方が生活の中で何に困っているのかを確認し、その原因を考えたうえで必要な運動を選ぶことです。
まず「何の動作に困っているのか」を確認する
「足が弱くなった」という訴えがあっても、実際の困りごとは人によって異なります。
椅子から立てないのか、歩き続けられないのか、階段が大変なのか、方向転換で不安定になるのか。
まずは具体的にどの動作で困っているのかを確認することが、トレーニングを考える出発点になります。
筋力ではなく動作の方法に問題がないかを見る
たとえば椅子から立ち上がれない場合でも、太ももの筋力不足だけが原因とは限りません。
足が前に出過ぎている、身体を前に動かせていない、タイミングよく力を出せていないなど、「動き方」が原因になっていることもあります。筋力と動作の両方を見ることが重要です。
また、膝の痛みや腰痛など、身体の痛みがある、固縮などで身体の可動域が不十分であるなど、筋力の他に関節可動域や疼痛など複数の要因から考える事がとても大事です。
左右差や姿勢、関節の動きも合わせて確認する
パーキンソン病は左右差がみられることも多いため、左右の筋力や動き方の違いも確認します。この左右差1つとっても、筋肉のアンバランスが起きているのか、側弯症などの骨関節の形状の問題なのか、このような要因を確認していきます。
さらに、前かがみなどの姿勢変化、股関節や足首などの関節が十分に動くかといった点も、立ち上がりや歩行に影響します。

ON・OFFや疲労による動きの変化を確認する
パーキンソン病では、同じ人でも時間帯によって身体の動きが変わることがあります。
薬が効いているONではできても、OFFでは難しくなる動作もあります。また、疲労によって歩幅や姿勢が変わる方もいます。
そのため、その人がいつ、どのような状況で動きにくくなるのかを見ることも大切です。逆に動きやすい時間帯がはっきりしているならば、その時間をうまく活用して運動やリハビリの時間にあてると非常に効果的となります。一方で、動きにくい時間帯に行ってしまうと、効果は半減する、全く効果を得られないということにもなります。

筋トレだけでなく実際の動作練習につなげる
筋力を高めるだけではなく、その筋力を実際の生活で使えるようにすることが目標です。
立ち上がりを良くしたいのであれば立ち上がる練習、歩行を良くしたいのであれば歩行練習も組み合わせます。
筋力をつける→実際の動作で使うという流れをが基本となりますが、実際の動作を反復練習するということも1つです。
パーキンソン病で鍛えておきたい筋肉

筋力トレーニングでは特定の筋肉だけに偏らず、上肢・下肢・体幹を含めて全身をバランスよく鍛えることが基本です。
その中でも、立ち上がりや歩行などの日常動作との関係が大きい筋群を紹介します。
太ももの筋肉|立ち上がりや膝を支える
太ももの前側にある「大腿四頭筋」は、膝を伸ばす働きを持ちます。
椅子から立つ、階段を上るなど、身体を持ち上げる動作に重要です。
ただし、立ち上がりは太ももの筋力だけで決まらないため、最終的には実際の立ち上がり練習につなげます。
お尻の筋肉|立つ・歩く・姿勢を保つ
「大殿筋」や「中殿筋」などのお尻の筋肉は、立ち上がりや歩行、立位の安定に関係します。
特に中殿筋は、歩行中に片脚で身体を支える際の骨盤の安定に重要です。歩行は片脚の連続で成り立ちます。中殿筋がしっかりしていると歩行も安定しやすくなります。
ふくらはぎ・すねの筋肉|歩行や足元の安定を支える
ふくらはぎの筋肉は歩行時に身体を前へ進める働きに、すねの前側にある「前脛骨筋」はつま先を持ち上げる動きに関わります。
ただし、小刻み歩行やすくみ足は足首の筋力だけが原因ではありません。歩行全体を見ながらトレーニングを考えます。
体幹の筋肉|姿勢と身体の安定を支える
腹部や背中などの体幹の筋肉は、座る、立つ、歩くといった動作の土台になります。
パーキンソン病では体幹のこわばりや姿勢の変化がみられることもあるため、単純に体幹を固めるだけではなく、姿勢を保ちながら身体を動かす練習も重要です。
自宅でできるパーキンソン病の筋力トレーニング
パーキンソン病の筋力トレーニングは、特別な器具がなくても自宅で行えます。
転倒が心配な方は、安定した椅子や手すりなどにつかまれる環境で行いましょう。
椅子からの立ち上がり

椅子に座り、足を少し手前に引きます。身体を前に倒して重心を足へ移し、ゆっくり立ち上がります。
手を使わずに難しい場合は、肘掛けなどを使っても構いません。
太ももやお尻を鍛えながら、立ち上がり動作そのものを練習できます。
椅子に座って行う膝伸ばし

椅子に座り、片方の膝をゆっくり伸ばして元に戻します。左右交互に行います。
主に太ももの大腿四頭筋を使う運動です。勢いで脚を振り上げず、ゆっくり動かしましょう。
立った姿勢で行うかかと上げ

椅子や手すりにつかまり、両足で立ちます。そこからかかとをゆっくり持ち上げ、元に戻します。
主にふくらはぎを鍛える運動です。バランスが不安定な方は、必ず安定した支持物につかまって行いましょう。
立った姿勢で行う脚の横上げ

椅子などにつかまり、片脚をゆっくり横へ開いて元に戻します。
主に中殿筋などのお尻の筋肉を使います。脚を高く上げるより、上半身が大きく傾かない範囲で行うことを優先します。
姿勢を保ちながら行う体幹トレーニング

椅子に座り、足を床につけて背筋を伸ばします。
姿勢を保ったまま、体を回しながら右肘と左膝をタッチさせるように近づけます。同じように反対側も行います。パーキンソン病では、体が捻りづらくなるのも特徴であるため、一石二鳥の運動となります。
体幹を強く固めることより、姿勢を保ちながら身体をコントロールすることを意識します。
筋力トレーニングは週何回・どのくらいやればいい?
Parkinson’s FoundationとAmerican College of Sports Medicine(ACSM)の運動推奨では、筋力トレーニングは週2〜3日の連続しない日に行うことが示されています。
ただし、適切な運動量は年齢や体力、病期、運動経験などによって異なります。
筋力トレーニングは週2〜3日がひとつの目安
上肢・下肢・体幹などの主要な筋群を対象に、週2〜3日程度が目安です。
1回30〜60分まで段階的に増やすことが推奨されていますが、運動習慣がない場合は短時間から始めても構いません。
毎日強い負荷をかける必要はない
同じ筋肉に強い負荷を毎日かける必要はありません。
筋トレをしない日は、ウォーキングやストレッチ、バランス練習などを組み合わせる方法があります。
回数よりも正しい動作を優先する
筋力トレーニングの目安として、主要筋群に対して8〜10回を2〜3セット程度行う方法が示されています。
ただし、回数を達成するために姿勢が崩れるのであれば無理に続ける必要はありません。
筆者の考え方としては、安全に正しい動作で行える回数を優先することが大切です。
慣れてきたら少しずつ負荷を調整する
運動が楽にできるようになったら、回数やセット数、ゴムバンドや重りなどを使って少しずつ負荷を調整します。
一度にすべてを増やすのではなく、体調や翌日の疲労を確認しながら段階的に進めましょう。

パーキンソン病の筋力トレーニングで注意したいこと
筋力トレーニングでは、負荷を高めること以上に安全に継続できることが重要です。
転倒しない環境を整えて行う
床に物やコード、滑りやすいマットがないか確認し、必要に応じて安定した椅子や手すりを使います。
転倒歴やすくみ足、強いバランス障害がある方は、一人で無理に立位運動を行わないようにしましょう。
できるだけ動きやすいONの時間帯に行う
可能であれば、薬が効いて身体を動かしやすいONの時間帯に運動を行います。
ただし、薬の効き方には個人差があります。普段の生活から自分が動きやすい時間帯を把握しておきましょう。
息を止めずに行う
強く力む際に息を止めると、血圧が大きく変動することがあります。
筋力トレーニング中は自然な呼吸を続け、力を入れるときに息を吐くことを意識しましょう。
痛みや強い疲労があるときは無理をしない
強い痛み、めまい、息苦しさ、普段とは違う強い疲労などがある場合は無理に続けないでください。
その日の体調に合わせて、回数や負荷を減らしたり休んだりすることも大切です。
症状が強い場合は医師や理学療法士などに相談する
転倒を繰り返している、立位が不安定、運動中にめまいや息苦しさが出る場合などは、自己判断で負荷を高めず専門職へ相談しましょう。
AXIS-PDでも、無料の相談窓口があります。運動やリハビリに関わることを相談したいという場合は、お気軽にご相談ください。
筋トレだけでなく「動作の練習」も組み合わせよう
筋力トレーニングによって筋力が高まっても、実際の生活動作が同じように改善するとは限りません。
パーキンソン病では、鍛えた筋力を立ち上がりや歩行などの動作につなげることが重要です。
筋力がついても実際の動作が自動的に良くなるとは限らない
動作には筋力だけでなく、姿勢、重心移動、バランス、動作緩慢なども関係します。
そのため、筋力を高める練習と、筋力を実際に使う練習を組み合わせます。
立ち上がりには立ち上がりの練習が必要
膝伸ばしなどで筋力を鍛えるだけではなく、実際に椅子から立ち上がる練習も行います。
筋力だけでなく、足の位置や体幹の前傾、重心移動を含めて練習することが重要です。
歩行には歩行・バランス練習を組み合わせる
歩行には筋力に加えて、片脚で身体を支える能力、重心移動、歩幅の調整、バランスなどが必要です。
歩きやすさを目標にする場合は、筋力トレーニングだけでなく、歩行練習やバランス練習を組み合わせましょう。
ストレッチや有酸素運動も含めて総合的に取り組む
パーキンソン病の運動療法では、筋力トレーニング、有酸素運動、柔軟性運動、バランス・敏捷性などを組み合わせることが推奨されています。
筋肉だけを見るのではなく、動く・歩く・生活するための身体全体を整えていくことが大切です。
よくある質問
多くの場合、体力やバランスに合わせて行えば可能です。転倒が不安な方は椅子や手すりにつかまり、浅いスクワットから始めましょう。
適切な方法で行う筋力トレーニングによって、パーキンソン病の筋固縮が悪化するとは限りません。ストレッチや身体を大きく動かす運動も組み合わせましょう。
強い筋力トレーニングを毎日行う必要はありません。目安は週2〜3日の連続しない日です。
筋力の改善が歩行を支えることはありますが、歩きにくさは筋力低下だけが原因ではありません。歩行練習やバランス練習も組み合わせることが重要です。
高齢の方でも、体力や症状に合わせて負荷を調整すれば行えます。転倒や持病が心配な場合は、医師や理学療法士などに相談しましょう。
まとめ
筋力トレーニングはパーキンソン病の運動療法の大切なひとつ
筋力トレーニングは、立ち上がりや歩行などの日常生活を支えるために大切な運動のひとつです。
「動きにくさ=筋力低下」と決めつけず原因に合わせて運動を選ぶ
パーキンソン病の動きにくさには、動作緩慢や筋固縮、姿勢・バランスの変化なども関係します。何が動作を難しくしているのかを考えることが重要です。
筋力を実際の立ち上がりや歩行につなげることが重要
筋力をつけるだけでなく、立ち上がりや歩行などの動作練習も組み合わせましょう。鍛えた筋力を実際の生活で使えるようにすることが大切です。
参考文献・参考資料
- Parkinson’s Foundation, American College of Sports Medicine(ACSM). Parkinson’s Exercise Guidelines for Exercise Professionals. 2025.
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